保存修復科学研究室 Conservation Science Section

概要

保存修復科学研究室について

保存修復科学研究室では、考古遺物や遺跡を確実に未来へ伝えていくために、材質に応じた新たな分析手法や保存修復技術の開発に取り組んでいます。


遺物と遺跡の保存

遺跡から出土する金属製遺物の中で特に鉄製遺物は化学的に不安定であり、展示・収蔵環境下で劣化が進行するものがあります。こうした劣化を抑制し安全に保管するために、鉄製遺物の保存・管理システムの再構築を目指して、埋蔵時の鉄製遺物の腐食が発掘後の劣化特性に及ぼす影響の検討、展示環境下での劣化メカニズムの解明等をテーマとして研究を進めています。


また、木製遺物の場合では埋蔵環境下での劣化によって、脆弱かつ多量の水分を含んだ状態となります。ひとたび乾燥させると、著しく収縮してしまうことから、元の形状のまま安定化させるための保存処理が必要です。現在、木製遺物の形状を維持するための薬剤を木材内部へ迅速に浸透させる手法の開発をおこなっています。

  • 展示中に劣化が生じた鉄製遺物(拡大像)

  • 大型木製遺物の保存処理風景(真空凍結乾燥処理後)

遺物だけでなく、古墳や磨崖仏、庭園遺構の景石など、屋外に位置する文化財の保存修復も大きなテーマです。遺跡は屋外の気象条件のもと、周辺の地盤と一体となって保存されるため、地下水の成分が塩として析出したり、あるいは寒冷地では水が氷晶となったりすることで、遺跡を構成する石や土壌の破壊が生じます。このような劣化を防ぐために、石や土壌の破壊メカニズムに関する基礎研究をおこなうとともに、装飾古墳の保存環境調査や、景石を冬期の凍結による劣化から守る養生方法など、遺跡を現地で安全に維持する保護施設やその運用方法を検討しています。

  • 庭園遺跡におけるフィールド調査風景

  • 石造文化財(石棺)の劣化要因調査

遺物の材質・構造調査

文化財の材質・構造調査には様々な光学的手法が用いられます。なかでも、蛍光X線分析法は非破壊測定が可能であるため、材質分析に大変有効です。ハンドヘルドタイプから大型資料のマッピング分析が可能なものまで各種の蛍光X線分析装置を活用し、材質分析を進めています。一方、文化財の内部構造調査については、X線CTを用いた研究をおこなっています。

  • 高松塚古墳壁画における材料調査

  • 全資料型蛍光X線分析装置

調査研究

調査・研究

考古資料の材質・構造の調査法及び保存・修復に関する実践的研究においては、ガラス製品の製作技法の解明と劣化状態の診断法の確立を目的としたレーザーラマン分光分析法の応用研究、土ごと取り上げられた平安時代の錠前に対するX線コンピューテッドトモグラフィの適用と埋没状況の3次元解析によるレプリカ作成ならびに保存修理への活用(九博と共同)、漆や繊維製遺物の分析による考古資料の分析データの集積、木材の貧溶媒法による含浸薬剤の析出実験に取り組んでいます。

一方、遺跡の保存・整備・活用に関する技術的開発研究においては、遺構の露出展示をおこなうための遺構内における土中水移動の現状の把握と遺構を露出した場合の土中水移動変化について予測することを定量的におこなうことを目的として、福島市宮畑遺跡および日田市ガランドヤ古墳をフィールドとして、土資料の不飽和水分移動特性を表すパラメータの推定をおこなっています。

刊行物

刊行物

■『遺物・遺構の取りあげ工法』埋蔵文化財ニュース16、奈良国立文化財研究所、1978年
■『鉄製遺物の保存法』埋蔵文化財ニュース24、奈良国立文化財研究所、1980年
■『層位・遺跡断面等の剥ぎ取り転写法』埋蔵文化財ニュース28、奈良国立文化財研究所、1980年
■『層位・遺跡断面等の剥ぎ取り転写法』埋蔵文化財ニュース28、奈良国立文化財研究所、1980年
■『木製遺物の保存科学』埋蔵文化財ニュース31、奈良国立文化財研究所、1981年
■『保存処理施設の現状』埋蔵文化財ニュース36、奈良国立文化財研究所、1982年
■『遺構の保存科学』埋蔵文化財ニュース45、奈良国立文化財研究所、1984年
■『金属製遺物の接着・補填材料』埋蔵文化財ニュース46、奈良国立文化財研究所、1984年
■『銅・青銅製遺物の保存処理』埋蔵文化財ニュース63、奈良国立文化財研究所、1988年
■『保存科学関係文献目録 遺物・遺構編』埋蔵文化財ニュース68、奈良国立文化財研究所、1990年
■『保存科学関連設備と保存科学に携わる人員の調査』埋蔵文化財ニュース78、奈良国立文化財研究所、1994年
■『出土有機質遺物保存処理の最近の動向』埋蔵文化財ニュース93、奈良国立文化財研究所、2000年
■『出土金属製遺物の保存処理-応用処理から保存処理まで-』埋蔵文化財ニュース105、奈良文化財研究所、2001年
■『古代のガラス』埋蔵文化財ニュース124、奈良文化財研究所、2006年
■『特集 東アジアの文化財保存修復事情 東アジア文化財保存修復国際会議専門家会議開催』埋蔵文化財ニュース126、奈良国立文化財研究所、2007年
■『高松塚古墳 壁画保存修理のための石室解体から』埋蔵文化財ニュース131、奈良文化財研究所、2008年
■『遺跡保存のための現地調査技術』埋蔵文化財ニュース134、奈良文化財研究所、2008年
■『東アジア文化遺産保存学会第一回大会』埋蔵文化財ニュース140、奈良文化財研究所、2009年

シンポジウム・研究会

シンポジウム・研究会

保存修復科学研究室では、全国の保存科学担当者が一堂に会し、最近の保存科学に関する研究討議と情報交換をおこなう保存科学研究集会を開催しています。

保存科学研究集会2024・日本木材学会木質文化財研究会2024年度例会

テーマ  : 「木質文化財の保存修復に関する新たな視点・最近の取組」
開催期日 : 2024年12月14日(土)
開催場所 : 奈良文化財研究所 本庁舎 大会議室

保存科学研究集会2019

テーマ  : 「遺跡保存に関する最近の動向」
配信期間 : 2021年3月22日(月)~3月28日(日)
開催場所 : 事前収録した講演をWeb配信

保存科学研究集会2018

テーマ  : 「同位体比分析と産地推定に関する最近の動向」
開催期日 : 平成30年11月27日(火)
開催場所 : 奈良文化財研究所 平城宮跡資料館講堂

保存科学研究集会2017

テーマ  : 「金属製遺物の調査・研究に関する最近の動向」
開催期日 : 平成30年3月9日(金)
開催場所 : 奈良文化財研究所 平城宮跡資料館講堂

保存科学研究集会2016

テーマ  : 「文化財調査におけるイメージング技術の諸問題」
開催期日 : 平成29年3月3日(金)
開催場所 : 奈良文化財研究所 平城宮跡資料館講堂

保存科学研究集会2015

テーマ  : 「出土木製遺物の保存に関する最近の動向」
開催期日 : 平成28年1月22日(金)
開催場所 : 京都大学 宇治キャンパス 木質ホール3階 セミナー室

保存科学研究集会2014

テーマ  : 「石造文化財の劣化と保存に関する新たな展開」
開催期日 : 平成27年1月23日(金)
開催場所 : 奈良文化財研究所 平城宮跡資料館講堂

保存科学研究集会2013

テーマ  : 「文化財の収蔵・展示環境 」
開催期日 : 平成26年2月21日(金)
開催場所 : 奈良文化財研究所 平城宮跡資料館講堂

保存科学研究集会2012

テーマ  : 「古代の繊維-古代繊織技術研究の最近の動向-」
開催期日 : 平成25年1月17日(木)
開催場所 : 奈良文化財研究所 平城宮跡資料館講堂

保存科学研究集会2010

テーマ  : 「古代の玉-最新の保存科学的研究の動向-」
開催期日 : 平成23年2月5日(土)
開催場所 : 奈良文化財研究所 平城宮跡資料館講堂

保存科学研究集会2009

テーマ  : 「保存科学における諸問題-遺構・遺物の保存修復と展示・活用-」
開催期日 : 平成22年3月4日(木)~5日(金)
開催場所 : 九州国立博物館 ミュージアムホール

保存科学研究集会2008

※文化遺産部遺跡整備研究室と合同開催
テーマ  : 「埋蔵文化財の保存・活用における遺構露出展示の成果と課題」
開催期日 : 平成21年1月30日(金)~31日(土)
開催場所 : 奈良文化財研究所 平城宮跡資料館講堂

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