歴史研究室

概要

歴史研究室について

 歴史研究室では、日本を代表し、世界文化遺産に登録されるような古寺社が所蔵する書跡資料・歴史資料について、奈良を中心として、継続的な調査研究をおこなっています。また、当研究所に寄贈された歴史資料、古都の旧家が所蔵する歴史資料についても調査研究をおこなっています。

巡訪研究室

 今回は、文化遺産部 歴史研究室の仕事についてご紹介します。
 奈良を中心とした近畿地方の古寺社には、現在に至るまで膨大な量の文化財が伝わっています。人間の手によって伝世されてきた文化財としては、質・量ともに世界的に誇るべきものです。

 それらの文化財の調査・研究は、昭和27年(1952)の当研究所発足以来、主要な業務の一つとして位置づけられてきました。現在、その中核を担っているのが歴史研究室です(写真①)。

 歴史研究室では、主に寺社に伝存する書跡資料・歴史資料の調査研究を実施しています。それは、広い意味で古文書と言われているものですが、比較的地味な調査なので、あまり注目される機会はありません。そこで、ここでは歴史研究室がおこなっている古寺社所蔵の古文書調査について、掘り下げてご覧いただこうと思います。
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①歴史研究室は、奈文研創設当初から存在した、歴史ある研究室です。平成30年(2018)に新しい庁舎に移りましたが、机や棚は、創設当初のものが今も活躍中です。
 古文書というものは、有名なものは管理も行き届き、内容もよく知られ、研究者が利用したり、展覧会に出品されたりします。しかしそのような古文書は、全体の中のほんの一部にしかすぎません。古文書とはその多くが、かつて寺社の中で使われていた書類が用済みになって箱詰めされ、蔵の奥深くにしまい込まれたものです。そして今もなお、しまい込まれたまま、何が入っているかよくわからない箱が、寺社にはたくさん存在しています。歴史研究室では、そのような未整理の古文書を主な対象として調査をし、目録を作成する、という最も基礎的な作業を長年にわたり実施してきました。当研究所の発足以来、半世紀以上継続しつつも、まだまだ調査対象が多くあるということからも、寺社が所蔵する文化財がいかに膨大であるかがうかがえます。
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    ②寺院の蔵にある箱を持ち出して、中を点検しているところです。

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    ③箱から古文書を取り出して並べています。形も内容もさまざまです。

 古文書調査自体は、単純といえば単純な作業です。箱の中などに入っている古文書を確認し(写真②③)、分類して番号を付けて(写真④⑤)、調書を取って(写真⑥⑦)、写真撮影をすすめていきます(写真⑧)。そして、作成した調書を写真と照らし合わせて検討し、不明な点はまた古文書を開いて解決するという手順で作業を進めます。こうして古文書を整理して目録や史料集の形で公刊し、保存・活用できるようにすることが、歴史研究室の最も重要な任務です(写真⑨)。
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    ④内容をチェックしながら分類しています。

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    ⑤古文書にラベルを貼ることもあります。和紙のラベルに墨で書くのは手間ですが、落ちにくく見やすいので最適です。

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    ⑥1点ずつ調書をとります。調査項目は、形状、紙質・大きさ・枚数、印、界線、行数、年記、そして内容の解読など多岐にわたります。年代判定や文書名を付けるという難しい作業もあります。数が多いので、すべてを調査するのに何年もかかります。

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    ⑦くずし字は読みにくいものもあります。

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    ⑧写真で記録します。現在は、パソコンの画面で確認しながら撮影できます。

 もちろん、古文書の内容は玉石混淆で、虫食いだらけ、ホコリまみれの大変な状態のものも数多くあります。しかし、昔の人々がしまい込んで以来開かずの箱を開け、その中身を確認する楽しさは、研究者として何事にも代えがたいものがあります。また、こうした古文書を一点ずつ把握するという地味な作業は、積み重ねることによって歴史を語る材料になっていきます。未知の古文書と向き合い、その内容を理解すれば理解するだけ、歴史に対する理解が深まるのですから、調査にも力が入ります。
 寺社の文化財は、先人たちが何百年もの間、大切に保管してきた結果、現在まで残ったものです(写真⑩)。それらの文化財は、寺社が遙か昔に創建されて以来、幾多の盛衰を経つつも、今日に至るまで途切れることなく存続してきた証しです。調査の本分とは、寺社に眠る資料の存在を明らかにすることです。そしてその内容を把握して古文書を世に出し、また古文書をより良い状態で後世に伝え残すことも大切な役目だと思い、日々、各寺社に出向いて調査に精を出しています。
(なお、古文書の調査風景の掲載にあたっては、唐招提寺・興福寺・薬師寺・中村泰氏のご高配をたまわりました。記して謝意を表します。)
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    ⑨目録や史料集の形で公刊します。これではじめて、研究者が活用できるようになります。

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    ⑩古文書が末永く保存・活用されることを願って作業しています。

調査と研究

古都所在寺社の歴史資料等に関する調査研究

 近畿地方の古寺社には、膨大な量の文化財が伝存しています。人間の手によって伝世されてきた文化財としては、質・量ともに世界的にも誇るべきものです。ですから、それらの文化財を調査・研究することは、当研究所発足以来の、中心的なテーマの一つと位置づけられています。歴史研究室は、それら有形文化財のうちの書跡資料・歴史資料、すなわち、文化財保護法が定める有形文化財の区分で言うと、書跡、典籍、古文書と歴史資料に関して、主な調査研究対象にしています。

 歴史研究室では、継続的に、興福寺・東大寺・薬師寺・唐招提寺・西大寺・仁和寺・氷室神社大宮家などの資料調査をおこなってきました。また、石山寺・法隆寺・高山寺・醍醐寺などの資料調査に協力してきました。そのような古寺社が所蔵する膨大な量の書跡資料・歴史資料について、調査して目録を作成する、という基礎的な調査を、研究所発足以来実施しています。さらに、そのようにして把握した資料を調査研究して、寺社の歴史や日本の歴史を考えるための材料を提供しています。

 また、古都の歴史に関する歴史資料の調査もおこなっています。平城宮・平城京を初めて調査研究した、江戸時代後期の北浦定政に関係する資料は、当研究所による調査の結果、北浦家より当研究所に寄贈され、平成15年に歴史資料として重要文化財に指定されました。その他、明治時代の学者である関野貞関係資料をはじめとする資料の調査研究をおこなっています。


現在の調査研究

 平成21年度は、興福寺・東大寺・石山寺・仁和寺・氷室神社大宮家・薬師寺・唐招提寺所蔵の書跡資料・歴史資料調査をおこないました。
 興福寺調査は、第105函・106函・107函の調書を作成し、第90函等の写真撮影を実施しました。また昨年度刊行の『興福寺典籍文書目録第四巻』(奈良文化財研究所史料第83冊)で提示した目録の中から、戦国時代大和国の飢饉・一揆等の実態を記した資料を『奈良文化財研究所紀要2009』で紹介しました。
 薬師寺調査は、東京大学史料編纂所とも協力して、第45函~第54函の調書作成と、第24函の写真撮影を継続して実施しました。
 また石山寺の調査を実施し、石山寺一切経の一部である「大智度論」の熟覧・詳細な調書作成と、ブローニー版での写真撮影をおこないました。
 仁和寺では、御経蔵聖教第31函~35函の調書原本校正と、第31~33函・第151函の写真撮影を実施しました。
 東大寺では、東大寺図書館収蔵庫第4号室収蔵の新修東大寺文書聖教の調査を、科学研究費補助金も充当して実施しました。第5函・第15函の写真撮影を実施し、また第53函・54函・55函・59函を調査して、目録データをパソコンに入力しました。
 唐招提寺所蔵資料については、境内とその周辺を描いた絵図類を調査・写真撮影し、その成果を戒律文化研究会の大会で報告しました。
  氷室神社大宮家文書については、昨年度に引き続き奈良市教育委員会との間で共同研究をおこない、未成巻文書仮第2函1巻~35巻の調書を作成しました。
 また、平城宮跡周辺の旧家が所有する絵図・古文書について、柳沢文庫とも適宜協力しながら、調査・写真撮影を実施しました。
 その他、調査協力の依頼を受けて、文化庁依頼の醍醐寺聖教調査・東大寺図書館の東大寺貴重書調査などに協力しました。

出版物

歴史研究室編集の奈良文化財研究所史料

■『仁和寺史料』 寺誌編一、奈良国立文化財研究所史料第三冊、1964年
■『仁和寺史料』 寺誌編二、奈良国立文化財研究所史料第六冊、1967年
■『唐招提寺史料』 第一、奈良国立文化財研究所史料第七冊、1971年
■『東大寺文書目録』 第一巻、奈良国立文化財研究所史料第十五冊、1979年
■『東大寺文書目録』 第二巻、奈良国立文化財研究所史料第十九冊、1980年
■『東大寺文書目録』 第三巻、奈良国立文化財研究所史料第二十一冊、1981年
■『七大寺巡礼私記』 奈良国立文化財研究所史料第二十二冊、1982年
■『東大寺文書目録』 第四巻、奈良国立文化財研究所史料第二十三冊、1982年
■『東大寺文書目録』 第五巻、奈良国立文化財研究所史料第二十四冊、1983年
■『東大寺文書目録』 第六巻、奈良国立文化財研究所史料第二十六冊、1984年
■『興福寺典籍文書目録』 第一巻、奈良国立文化財研究所史料第二十九冊、1986年
■『興福寺典籍文書目録』 第二巻、奈良国立文化財研究所史料第四十四冊、1996年
■『北浦定政関係資料』 奈良国立文化財研究所史料第四十五冊、1997年
■『北浦定政関係資料 松の落ち葉一』 奈良文化財研究所史料第六十二冊、2003年
■『北浦定政関係資料 松の落ち葉二』 奈良文化財研究所史料第六十五冊、2004年
■『興福寺典籍文書目録』 第三巻、奈良文化財研究所史料第六十七冊、2004年
■『黒草紙・新黒双紙(薬師寺所蔵)』 奈良文化財研究所史料第七十八冊、2007年
■『興福寺典籍文書目録』 第四巻、奈良文化財研究所史料第八十三冊、2009年

データベース

データベース

薬師寺典籍文書データベース

大宮家文書データベース

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