遺跡・調査技術研究室

概 要

概要

 遺跡・調査技術研究室は、2006年4月の機構改編により、遺跡およびその調査法の研究と文化財の調査技術の開発・応用をおもな業務とする研究室として再出発しました。過去に存在した集落遺跡、測量、発掘技術、遺跡調査技術、遺物調査技術の各研究室の伝統と蓄積を継承した研究の推進を目的としています。

巡訪研究室

 奈良文化財研究所は人やそれを取り巻く環境の歴史を明らかにする研究を核に研究を進めている研究機関です。その視点は多種多様。明らかになることがある一方、それは更なる新しい問いを生みます。それにどう応えるのか、研究は日々進められるのです。  遺跡を主な対象として、いかに調査し、どのような情報を得るのか、という研究を進めているのが遺跡・調査技術研究室です。ここではその今を紹介します。

【情報を集めて公開する】遺跡データベースの作成と公開
 遺跡から得られる情報は多種多様であり、全国で毎年研究成果が積み上げられていきます。遺跡の情報を再構成し、情報を集積してデータベース化をおこなう検討は、基礎的な作業といえるでしょう。遺跡データベースを長年蓄積・公開しています。

【土地から過去を知り、未来を見る】遺跡の地質学的検討と防災・減災への応用
 また、地質学の観点から遺跡の研究を進めると、人がいかに土地を利用し、また災害などに向き合ってきたのか、という人と環境のかかわりが見えてきます。これを知ることで過去の土地の歴史やそこで活躍した人々のことを知るだけでなく、未来の防災や減災に繋がる知見を得ることも可能になります。これは、遺跡の発掘調査で得られる情報を活用して歴史の理解に加え、今の社会の安全や安心にまで成果を活用できる道を拓く方法です。
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    地層のサンプルを採取する

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    遺跡で発見された地震の痕跡(噴砂)

【見えない地中を見えるようにする】遺跡探査技術の開発と普及
 光が届かない土の中に存在する人々の活動が残した痕跡から過去を知るために、発掘調査がおこなわれます。この調査は土を取り去って実際にあらわれる痕跡を目にすることが可能な反面、遺跡の状況を大きく変えてしまい、元に戻せないという問題点があります。また、どこにそのような痕跡があるのかがわからないままに掘れば、無駄な時間や費用を費やしてしまうことも少なくありません。このため、掘らないで調査をおこなう遺跡探査の方法の検討も進めています。
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地中レーダー探査風景
【情報を測り、残す】文化財の計測手法の検討と開発
 この世は諸行無常。あらゆるものは形を変えていきます。このため、発掘調査などで明らかになったり、今まで伝えられてきた文化財の形状は、詳細かつ早急に記録しておくことが必要です。
 このため、本研究室では測量や計測方法の改良や開発を進めてきました。近年ではレーザー光や画像処理を用いた三次元計測が簡便かつ低廉化してきており、これらの技術を中心に全国で文化財保護に携わる人々への方法の洗練と普及を進めています。また、碑文等の痕跡の記録をより簡便に可能にする「ひかり拓本」技術の開発と試行も進めています。
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    土器三次元計測風景

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    須恵器壺形土器の三次元計測成果

 これらの研究を通じて、国内外の調査への協力や普及、自治体等の職員の方々への研修などをおこなう日々です。必要とされる研究は何か、を常に問いながら、今後も研究を進めていきます。

調査研究

調査・研究

 遺跡・調査技術研究室では、いくつかの分野の研究を並行して進めています。 まず、遺跡およびその調査法の領域では、古代の寺院官衙関連遺跡などの資料を収集整理するとともに、遺跡の性格認定の指標や、発掘調査で抽出すべき基本的属性についての研究をおこなっています。収集・補訂した資料はデータベース化し、遺跡の性格や所在地、文献目録、おもな遺構と遺物、建物の詳細データと、地図や遺跡全体図、建物図面などの画像データを、奈良文化財研究所のホームページ上でご覧いただくことができます。また、都城発掘調査部と協力して古代官衙集落研究会を開催し、その研究報告の編集・刊行を継続しています。
 
 このほか、文化庁の委託を受けて、『発掘調査のてびき』集落遺跡発掘編および整理・報告書編の作成作業を担当し、2010年3月に刊行しました。現在は、集落以外の遺跡についての『発掘調査のてびき』作成にとりくんでいるところです。

 一方、文化財の調査技術の領域では、測量・計測、探査を中心に活動をつづけています。

 測量・計測分野では、低価格の三次元レーザースキャナーの実用化を達成し、ひきつづき国内外のさまざまな資料を対象として、三次元計測をおこなっています。その普及のため、2010年9月には、全国の埋蔵文化財担当者を対象として、専門研修「三次元計測課程」を実施しました。

  探査分野では、平城宮、藤原宮、桜井茶臼山古墳、東大寺、中宮寺(いずれも奈良県)、胡桃館遺跡(秋田県)台渡里遺跡(茨城県)、天良七堂遺跡、三軒屋遺跡(ともに群馬県)、伊勢国府(三重県)、芝生城(徳島県)、大宰府(福岡県)西都原古墳群(宮崎県)、鋼山製鉄所、苗代川窯(ともに鹿児島県)などの多くの遺跡で、地方公共団体や大学と共同調査をおこないました。とりわけ、伊勢国府での試行を基礎に改良を加えたGPR(地中レーダー)機器は、天良七堂遺跡での総柱建物の確認、三軒屋遺跡での下層遺構の形状の確認、平城宮での建物等の詳細の確認といった成果を生んでいます。

 また、展示企画室と協力して、平城宮跡資料館の平城遷都1300年記念冬季企画展『測る、知る、伝える ―平城京と文化財― 』を、2010年11月26日から2011年1月16日まで、国土地理院近畿地方測量部との共催で開催しました。測量と地理という視点から、平城京と文化財を読み解くさまざまな試みや、古代から現在にいたる研究成果の一端をお伝えできたかと思います。

刊行物

刊行物

■『文化財の壺』第2号、文化財方法論研究会、2011年
■『漢長安城桂宮』奈良文化財研究所、2011年
■『古代東アジアの造瓦技術』奈良文化財研究所、2010年
■『官衙と門』奈良文化財研究所、2010年
■『文化財の壺』第1号、文化財方法論研究会、2010年
■『文化財のための三次元計測』岩田書院、2010年
■『発掘調査のてびき―集落遺跡発掘編―』文化庁文化財部記念物課、2010年
■『発掘調査のてびき―整理・報告書編―』文化庁文化財部記念物課、2010年
■『レーザースキャナーによる三次元計測』埋蔵文化財ニュース139、奈良文化財研究所、2010年
■『古代地方行政単位の成立と在地社会』奈良文化財研究所、2009年
■『台帳の利活用法と土器の洗浄法』埋蔵文化財ニュース132、奈良文化財研究所、2008年
■『古代豪族居宅の構造と機能』奈良文化財研究所、2007年
■『遺跡探査の実際』埋蔵文化財ニュース127、奈良文化財研究所、2007年
■『在地社会と仏教』奈良文化財研究所、2006年
■『地方官衙と寺院―郡衙周辺寺院を中心として―』奈良文化財研究所、2005年
■『駅家と在地社会』奈良文化財研究所、2004年
■『古代の官衙遺跡 Ⅱ 遺物・遺跡編』奈良文化財研究所、2004年
■『古代の陶硯をめぐる諸問題―地方における文書行政をめぐって―』奈良文化財研究所、2003年
■『古代官衙・集落と墨書土器―墨書土器の機能と性格をめぐって―』奈良文化財研究所、2003年
■『古代の官衙遺跡 Ⅰ 遺構編』奈良文化財研究所、2003年
■『銙帯をめぐる諸問題』奈良文化財研究所、2002年
■『遺跡の探査』日本の美術 第422号、至文堂、2001年
■『遺跡を探る』飛鳥資料館図録第37冊、奈良文化財研究所、2001年
■『考古学のための国際地中レーダー探査学会報告書』奈良文化財研究所、2001年
■『郡衙正倉の成立と変遷』奈良国立文化財研究所、2000年
■『遺跡探査実態調査』埋蔵文化財ニュース98、奈良国立文化財研究所、2000年
■『古代の稲倉と村落・郷里の支配』奈良国立文化財研究所、1998年
■『律令国家の地方末端支配機構をめぐって―研究集会の記録―』奈良国立文化財研究所、1998年
■『遺跡を測る』飛鳥資料館図録第30冊、奈良国立文化財研究所、1997年
■『遺跡の探査法』埋蔵文化財ニュース71、奈良国立文化財研究所、1991年
■『コンピュータによる発掘調査記録法』埋蔵文化財ニュース55、奈良国立文化財研究所、1986年
■『写真測量による遺跡・遺物実測の外注管理』埋蔵文化財ニュース37、奈良国立文化財研究所、1982年

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