四神の中でも朱雀は、南を守る神獣で、夏の季節を象徴し、色は赤(朱)があてられる。
キトラ古墳の朱雀は、向かって右側(西)を向き、両翼を広げ、地を蹴って今にも飛翔せんばかりの躍動的な姿で描かれる。尾羽と脚部には下描きと思われる刻線が確認できるが、尾羽は刻線と描線とが大きくずれており、仕上げの際は筆線の勢いを重視して描いたとみられる。また、南壁は閉塞石であるため、唯一石室外で描かれたとみられ、そのことが羽の細かい描写や瞳の繊細な表現を可能にしたと考えられる。
高松塚古墳の朱雀は、盗掘時に破壊されたため残っていない。キトラ古墳の朱雀は盗掘で左翼を失っているものの、その全貌をうかがえることから、国内でも数少ない奈良時代以前の作例として、極めて貴重なものである。
〈註〉
四神:古代中国にはじまる東西南北の方位をつかさどる4種類の神獣。天の四方の星宿(星座)や陰陽五行説による各方位、季節、色が対応している。