ベトナムの文化財
ドンラム村農村集落保存プロジェクト
 ベトナムでは、近年の急激な経済発展による近代化・工業化の一方で文化的価値の高い伝統的な集落が失われていく現状を憂い、それらの調査・研究と保存計画の策定が急務となっています。2003年3月、日本国文化庁とベトナム社会主義共和国文化情報省との間で、伝統的集落および建造物の保存、修復、管理の分野における技術協力に関して、ROD(Record of Discussion)が締結され、そのケーススタディとして、ハノイ近郊の農村集落であるハテイ省ドンラム村の保存プロジェクトが選ばれました。

 奈文研は、文化庁の協力要請を受け、文化庁によるアジア・太平洋地域文化財建造物保存修復協力事業の一環としてドンラム村農村集落保存プロジェクトに参加しています。同時に、昭和女子大学を中心とした文部科学省科学研究費補助金による研究チームの共同研究者として、主にドンラム村の集落構成及び建造物の調査をおこなっており、その上で保存計画を立案していく予定です。

 ドンラム村は、ベトナム人の構成民族のうち最大人口を占めるキン族の村で、ベトナムが中国による支配から自律し、独自の国家を形成していく過程で活躍したフン・フン、ゴ・クエンといった英雄を輩出しました。村の主要地区は、直径300メートルほどの微高地に設けられた4つの集落からなっています。この微高地の周囲を塀と溜池で囲み、各集落の入口には門を設けるという閉鎖的な構成に特徴があります。集落内では、通り抜けの可能な比較的太い街路から、多数の袋小路が枝分かれし、住宅が密に配されます。

 各集落には、村の集会所より発して守護神を祀る場と変じたディン、国家の英雄を祀る神社であるデンといった宗教施設や、小規模な集会所であるディエムが、主要な街路や広場に面して設けられており、これらの建物には歴史的建造物が数多く見られます。また、集落内に多数置かれる装飾的な公共井戸も、集落の景観に彩りを添えています。

 住宅は、敷地外周に沿って建物を置き、残る部分を組積造の高い壁で囲んでいます。壁には煉瓦、日干し煉瓦、この土地の地下から切り出したラテライトが用いられ、集落に色彩の統一感をもたらしています。建物は、一般的なベトナム北部の伝統的建造物と同様に、外壁を組積造とし、内部に木造の架構を組み上げるものとなっています。

 伝統的建造物が密度濃く残り、すぐれた集落景観を形成しているこのドンラム村の保存に、日本で蓄積された町並み調査及び保存計画立案のノウハウを活かすべく、現在、調査に取り組んでいます。

ドンラム村への入口の一つ

ドンラム村の路地

ドンラム村の中心施設であるディン(17世紀)


グエン朝時代の民家には梁の下面に漢字で銘文が刻まれている。