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1つの展示ができるまで

2016年3月 

 皆さんは、平城宮跡資料館の展示をご覧になったことはありますか? この資料館は、奈文研の約50年にわたる平城宮・平城京の発掘調査成果を、展示をとおして皆さんに紹介する施設です。開館日(原則 月曜日および年末年始を除く日)ならいつでも見ることができる常設展示のほか、子ども向けの夏期企画展や、実物の木簡を展示する秋期特別展「地下の正倉院展」、最新の発掘成果をご覧いただく速報展なども開催しています。 私が所属する展示企画室は、主にこれらの企画展や特別展、速報展などの企画を担当しています。展示が無事にオープンし、皆さんにご覧いただくまでには実にさまざまな過程があり、たくさんの人の協力を得て成り立っています。ここでは、昨年、史料研究室と一緒に私が担当した「地下の正倉院展 造酒司木簡の世界」がオープンするまでを、ダイジェストでお話ししたいと思います。

 昨年の「地下の正倉院展」は、造酒司(平城宮の北東部に位置する、酒や酢をつくる役所)から1964年~65年に出土した木簡568点が国の重要文化財に指定されたことを記念して、新指定の木簡を公開するというものでした。 木簡の調査研究を専門とする史料研究室の担当研究員と何度も打合せをしながら、造酒司に関わる論文や報告書などを読み、全体の構成や出品したい資料などを決め、造酒司という遺構においてここはぜひ注目してほしい!というポイントを絞っていきました。これらが決まったら、会場に配置する展示ケースを検討したり、資料や遺構の特徴をできるだけわかりやすく・面白く展示するための演示具を発注したりします。 一方で、展示を周知し、たくさんの方々に来館いただくためのポスターやチラシのデザインも必要になります。 他にも、リーフレットや会場パネルの原稿執筆、それらに掲載する図の作成、写真の撮影、広報誌への原稿執筆・・・などなど、オープンに向けての準備は多岐にわたり、いつも以上に緊張感のある毎日が続きました。

 こんなにたくさんの準備、もちろん1人でできるわけはありません。 特に、私はこれまで美術史を専門としてきたので、考古学の展示は右も左もわからないことばかり。迷ったときには的確な助言をしてくださり、さまざまな場面でお世話になった研究員の諸先輩方をはじめ、資料の撮影や会場のライティングを担当してくださったカメラマン、広報や展示に伴うさまざまな手続きを担当してくださった職員の皆さん、会場で応援してくださる資料館の職員やボランティアの皆さん。そして、展示で使う既存写真の収集、たくさんの会場パネルや図の作成などの細かい作業、ポスターやチラシのデザインなど、多くの面で助けてくれた同室の職員の皆さん。ここではとても書ききれないほどの、たくさんの方々の支えがあり、何とか乗り越えることができました。この場をお借りしてお礼を言いたいと思います。ありがとうございました。

 来年度も平城宮跡資料館では、奈文研の発掘調査成果をわかりやすく・面白く伝えられるような展覧会が開催されます。まだ一度も来館されたことのない方も、常連さんも、ぜひ平城宮跡資料館に足を運んでいただけたらと思います。

 

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「地下の正倉院展」のチラシ。
酒づくりをイメージした水の写真を撮影いただき、「造酒司」と記された最も特徴的な木簡と組み合わせ、デザインが完成しました。

 

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会場風景。写真左側は、特別な儀式に用いる酒を醸造するための水を汲んだとされる井戸の写真。
この井戸は平城宮跡内の遺構展示館そばに復原されていますが、撮影にあたっての清掃の手続き、撮影や画像データ作成、約3m四方の大きな紙での出力や、壁への貼り付け作業など、多くの方々の協力を得ました。

(企画調整部アソシエイトフェロー 中村 玲)

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