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災害痕跡データベース~埋蔵文化財における新たな取り組み~

2016年1月 

 地震、雷、火事、親爺・・・最近めっきり聞かなくなったことばですが、世の中で特に怖いとされているものを語呂よく順に並べた慣用句です。この「親爺」、実は台風に相当する大山風(おおやまじ)や大風(おおやじ)が元だったという説もあり、自然災害の怖さを並べたのか、はたまた昔の親爺の怖さは自然災害並みだったのか・・・。

 それはさておき、2015年、日本列島は多くの自然災害に見舞われました。中規模地震の目安となるマグニチュード5.0を越える地震は、日本周辺において少なくとも13度発生し、このうち三陸沖(2/17)、鳥島近海(八丈島南方約180km付近:5/3)、薩摩半島西方沖(11/14)で発生した3度の地震には、小規模ながら津波の発生が観測されました。津波といえば、遠く離れたチリ中部沖で発生した地震による津波が日本沿岸に届いた(9/17)こともありました。火山噴火も浅間山や阿蘇山、桜島などで頻発するようになっており、口永良部島では2014年から、西之島に至っては2013年から継続して噴火が確認されています。これに台風や雪害、ゲリラ豪雨などの気象災害を含めると、私たちはかなりの確率で「異常」で「大規模」な自然現象に遭遇し、「被災」していることになります。

 この「異常」で「大規模」な自然現象は、私たちの生命だけでなく生活を脅かす存在であり、私たちの暮らしにとって常に重大な懸案事項です。しかし残念ながら私たちは、未だにそれらをコントロールすることも、発生を完全に予測することもできていません。では今の私たちには何ができるのでしょうか?

 奈文研では、2014年度より「考古資料および文献史料からみた過去の地震・火山災害に関する情報の収集とデータベース構築・公開」という事業に取り組んでいます。この事業の目的は、全国の発掘調査現場で見つかる地震や火山噴火、津波といった災害の痕跡情報を収集・分析・整理することによって、「いつ」「どこで」「どのような」災害が過去に発生したかという歴史的なデータを公開し、広く活用できるようにしようというものです。すなわち、「異常」で「大規模」な自然現象をコントロールすることはできなくとも、過去に光を当てることによって、その発生パターンや被災のメカニズムを検証し、「災害の軽減」を目指すという、まさに「温故知新」な取り組みです。そして埋蔵文化財にとっては未来の私たちの暮らしへ資するという、「文化財活用」への新たな、そして重要な一面を担うことになったといえます。私たちの未来を守るためにも、1日でも早くデータベースの公開に漕ぎ着けられるよう、日夜頑張っております。

 

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平城第530次発掘調査で発見された巨大地震による液状化の痕跡

(埋蔵文化財センターアソシエイトフェロー 村田 泰輔)

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