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(119)見えないところを見る

X線で細部明らかに

 遺跡から出土する金属製遺物の中には、サビに覆われ、本来の形状がわからなくなったものや、複数の遺物がサビで互いにくっついてしまったものがあります。

 こうした遺物の調査には、X線CTという装置が大活躍します。X線CTは、コンピューター断層撮影法と呼ばれ、物質を透過するX線の性質を利用して、対象物の内部や構造を調べる方法です。

 さまざまな方向から遺物にX線を当ててデータを集め、コンピューターで処理します。すると、遺物の内部の構造が、手に取るように明らかになります。観察したい部分の断面画像を自由に作ることもできます。

 写真は、京都府長岡京市の長岡京跡で出土した、銭の穴に紐(ひも)を通してまとめた「さし銭」です。サビて銭同士がくっつき、銭の種類や正確な枚数がわかりません。そこで、X線CTで調査することにしました。

 その結果、枚数が72枚と判明。スライス画像に「和同開珎」「万年通宝」「神功開宝」の文字が現れ、奈良時代の3種類のお金であることがわかりました。

 このように、遺物を壊すことなく、見えないところも見えるようになるなど、文化財の分析技術や機器の進歩には目ざましいものがあります。

 

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(上)長岡京跡で出土したさし銭(長岡京市教委所蔵)

(下)X線CTのスライス画像で浮かび上がった「神功開宝」の文字

(奈良文化財研究所研究員 脇谷草一郎)

(読売新聞2015年10月4日掲載)

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