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(97)渤海との交流

夏でも着たい 毛皮の服

 古代の対外交流といえば、遣唐使がまず頭に思い浮かぶでしょう。でも実は、それよりはるかに多くの交流が、日本海の対岸に位置した渤海(ぼっかい)国との間でおこなわれていました。正式な使節の往来だけでも、およそ200年の間に、日本から13回、渤海からは34回を数えます。

 そうした交流の本来の目的は、国家間の外交にありましたが、同時にお互いの国にない特産品を交易する貴重な機会となりました。たとえば渤海からは虎など動物の毛皮や蜜、人参(にんじん)などがもたらされ、日本からは絹などの繊維製品や黄金、水銀などが輸出されました。正倉院には渤海産とみられる蜜(みつろう)や人参が今日まで伝わっています。

 渤海の特産品の中でも、日本の貴族たちが入手を熱望したのは毛皮です。平安時代のことですが、醍醐天皇の皇子が渤海使に会う際に、夏にもかかわらず貂(てん)の毛皮を8枚も重ね着して現れ、周囲を驚かせたというエピソードが残っています。

 奈良時代前半の長屋王邸跡から出土した木簡の中には、「豹(ひょう)皮」と書かれたものがあります。木簡の年代は、727年に来日した第1回渤海使以前のものですが、渤海との何らかの関わりが想定されています。果たして長屋王も豹皮を重ね着したのでしょうか。

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「豹皮分六百文」などと書かれた長屋王邸跡出土の木簡

(奈良文化財研究所研究員 諫早直人)

(読売新聞2015年3月29日掲載)

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