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古代のリサイクル -鋳型によるガラス小玉の生産-

2015年1月

 「たこ焼き型鋳型」と呼ばれることもある特殊な土製品をご存知でしょうか。まさに現代のたこ焼き器のように片面にたくさんの穴のあいた板状の土製品で、古墳時代から奈良時代の遺跡から発見されています。この土製品、実はガラス小玉を作るための鋳型として使用されていました。鋳型といっても、とけたガラスを流し込むのではなく、芯棒を立てた鋳型の型穴に細かく砕いたガラス片を充填し、鋳型ごと加熱してガラス破砕片どうしを熔着したと考えられます。鋳型で製作されたガラス小玉は、表面に付着した突起状のガラス片やブロック状の色むらが観察されるので、比較的容易に見分けることができます。

 ところで、日本列島では数十万点におよぶ大量のガラス小玉が発見されていますが、これらはすべてこのような「たこ焼き型鋳型」で製作されたのでしょうか。実はそうではありません。日本列島で出土するガラス小玉の大半は、軟化したガラスを引き伸ばして製作したガラス管を分割して小玉を得るという「引き伸ばし法」とよばれる方法で作られています。しかし、日本列島内で引き伸ばし法によるガラス小玉の製作が行われた痕跡は全く認められず、すべて輸入品と考えられています。

 鋳型によるガラス小玉製作の原料となるガラス素材には、このような輸入ガラス小玉の破損品が使用されたと考えられます。日本列島では7世紀後半まで原料からガラスそのものを生産する技術を持たなかったため、破損した輸入品を鋳型を使ってリサイクルしていたのでしょう。基本的には同系統の色調のガラス片が素材として使用されますが、異なる種類のガラスが混合されている場合もあります。

 鋳型を用いて製作されたガラス小玉は古墳時代中期後半に急増します。とくに、古墳時代の終わりごろからは、東日本でその割合が多く、出土するガラス小玉の約80%に達することもあります。東日本で大量に発見される鋳型によるガラス小玉の生産地については長らく不明でしたが、最近の発掘調査で、7世紀前半~中葉に比定される埼玉県本庄市の薬師堂東遺跡から、100点を超える大量のガラス小玉鋳型が発見されました。日本初となる完形品も1点出土しています。関東や東北地方の終末期古墳から発見される大量の鋳型によるガラス小玉の生産地の有力な候補となると考えられます。

 

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ガラス小玉製作用鋳型(埼玉県薬師堂東遺跡)

 

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鋳型を用いて製作されたガラス小玉(静岡県半田山G支群8-KF03)

      (埋蔵文化財センター研究員 田村 朋美)

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