海老錠と鑰 都で活躍
家の玄関に鍵をかけていますか。自分の部屋や机の引き出しにも、鍵をかけている人もいるでしょう。
鍵の歴史は古く、奈良時代には、海老錠(えびじょう)と鑰(やく)と呼ばれる2種類の「カギ」がありました。
海老錠は、海老のように曲がった錠前で、左右に開く扉の把手(とって)などに取り付けます。バネ仕掛けの構造になっていて、錠前の鍵穴に鍵をさし込み、バネをせばめて取り外す仕組みになっています。
鑰は別名「クルル鉤(かぎ)」とも呼ばれ、先端がフックになった細長い鉄の棒をL字状に曲げた鍵です。扉に開けた鍵穴にさし込んで、裏側の閂(かんぬき)を外します。
こうした「カギ」は平城京の役所やお寺などで、大事な品物を収納した建物の戸締まりに使われました。また唐櫃(からびつ)や厨子(ずし)などの家具には、銅製で綺麗(きれい)な文様をもつ海老錠が使われることもありました。
いっぽう、奈良時代の民家には「カギ」はなかったようです。戸締りは、つっかい棒や紐(ひも)で扉を固定するだけだったのでしょう。民家に「カギ」が普及し始めるのは、明治時代になってからのことです。
奈良のお寺では、今も海老錠や鑰を使っているところがあります。奈良時代の「カギ」の使い方を間近に見ることができるかもしれません。
古代の「海老錠」(中身部分)
(奈良文化財研究所研究員 和田一之輔)
(読売新聞2014年8月3日掲載)