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(55)木とんぼとコマ

くるくる 古代人の工夫

 1984年、平城宮の内裏の東を流れる奈良時代後半の水路から、現在の竹とんぼによく似たプロペラ形をした遺物が出土しました。素材は竹ではなくヒノキであったため、竹とんぼならぬ「木とんぼ」と命名されました。中央の小さな孔(あな)をはさんで、風切り用の羽根を左右対称に削り出す点は、さながら現在の竹とんぼの形そのものです。この発見により、それまで江戸時代に始まると考えられてきた竹とんぼの歴史が、一気に奈良時代にまでさかのぼることになりました。

 平城京から出土する木製の玩具としては、ほかにコマがあります。現在のコマは、上面の軸棒に指や紐(ひも)をかけて回転させますが、当時のコマにはそうした細工がなく、側面をムチで叩(たた)いて回したようです。平城宮や長屋王邸から出土したコマの中には、先端に鉄棒を打ちこんで回転をよくする工夫を施したものもあります。

 こうしたコマや木とんぼなどの遊び道具は、コマ(高麗)の名前の由来にみるように、藤原京や平城京の時代に海外からもたらされました。ここで紹介した木とんぼやコマは、平城宮跡資料館でご覧になることができます。テレビゲームや携帯用ゲーム機全盛の現在ですが、ときにはこうした日本の伝統的な玩具の歴史に思いをはせてみてはいかがでしょうか。

 

(55)木とんぼとコマ(上)_読売撮影.jpg

(55)木とんぼとコマ(下)_読売撮影.jpg

平城宮跡資料館で展示されている奈良時代の(上)木とんぼ(下)コマ

(奈良文化財研究所主任研究員 廣瀬覚)◇写真・読売新聞社ご提供

(読売新聞2014年5月18日掲載)

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