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(29)柱穴を掘る

縄文期からの工法

 スクープです。古代人が柱を立てるための穴を掘る姿を捉えました。

 できるものなら、タイムマシーンに乗ってこんな写真を撮ってみたいものですが、本当は古代人に扮(ふん)した奈文研の研究員です。しかし柱を立てる穴は本物、平城宮第一次大極殿を囲む回廊の南面に建つ楼閣の巨大な柱穴(ちゅうけつ)です。

 古代の宮殿や寺院では、ごく一部の重要な建物を、礎石の上に柱を立てる瓦葺(ぶ)きの建物としました。これは中国大陸から韓半島を経由して伝えられた新しい建築技術です。その一方で多くの建物は、穴を地面に堀って柱を立てる縄文時代からの伝統的な工法で建てられました。この穴一つ一つを「柱穴」、建物を「掘立柱(ほったてばしら)建物」と呼んでいます。大極殿の正面に建つ2棟の楼閣は掘立柱を用いた平城宮最大規模の建物です。2人がすっぽり入るこの穴は、約3メートル×2・5メートルの長方形の平面で、深さは3メートル以上あります。

 これほど大きな穴を掘るにはどれほどの人手がかかったでしょうか。平安時代に書かれた『延喜式』には、1人が1日に土を掘る標準的な作業量を1・5メートル立法(5尺立法)と定めています。さきほどの穴で計算すれば、1人で約6・7日分の作業量になります。でも写真の通り2人で掘れば3日とちょっとですむ計算になります。

 もう1人加勢したらどうでしょう。上で土を運ぶ人も必要ですね。楼閣にはほぼ同じ大きさの柱穴が16個もあります。さあ、つづきはみなさんが古代の棟梁(とうりょう)になって、柱穴を掘る作業量を考えてみてください。

 

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柱穴を掘る古代人?

(奈良文化財研究所研究員 鈴木智大)

(読売新聞2013年11月3日掲載)

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