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(20)役人の手習い

上手な字 書けるまで

 古代の役所では日々、様々な文書が作られていました。もちろんパソコンなどはありませんから、すべて手書きです。役人たちには、文字を正しく美しく、書きこなす能力が求められました。

 平城京や藤原京・飛鳥地域の発掘調査では、彼らが文字の練習をした、手習いの木簡(墨で文字を書いた木札)が、たくさん見つかっています。

 手習いの方法はいろいろ。一つの文字を繰り返し書くこともあれば、中国の書物の一節や、和歌を書くこともあります。

 和歌で最も多いのは、「難波津(なにわつ)に咲くやこの花冬ごもり今は春べと咲くやこの花」という「難波津の歌」。当時は、「奈尓波都尓佐久夜己乃波奈(なにわつにさくやこのはな)……」というように、1音を漢字1文字で書きました。

 平安時代の文献には、難波津の歌は手習いをする人が初めに書く歌だと記されています。木簡から、奈良時代以前から手習いの歌として人々に親しまれていた様子がうかがえます。

 果たして手習いの成果は……。発掘調査で見つかった木簡の上手(じょうず)な字、下手(へた)な字を、ぜひ、皆さんの目で確かめてみては、いかがでしょうか。

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「難波津の歌」の一部とみられる「奈尓」の文字が書かれた木簡

(奈良文化財研究所研究員 桑田訓也)

(読売新聞2013年9月1日掲載)

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