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様になる

2009年2月

 飛鳥池の発掘調査では、いろいろな木製の「様(ためし)」が出土した。「様」とは、製品の見本、あるいは手本といったもので、これと同じものを工人は作るのである。「様」とそっくり同じように作ることで、製品として一定の規格や性能が確保されることになる。また、「様」があれば、多くの工人で作業することもできるので、量産が可能になる。なかでも、人の命ともかかわってくる武器・武具の関係では、「様」の存在が重要な意味を持ってくる。

 例えば、何種類かの小札と呼ばれる鉄板を何枚も綴り合せて作る鎧では、同じ規格の小札を大量に準備する必要がある。大きさの違いや綴じ穴の位置にずれがあったりすると、うまく組み上げることができない。また、矢でも、一本一本、先端の鉄鏃の形や重さが違えば、矢を射るたびに、威力や飛距離が異なることになり、戦いの時に大いに戸惑うであろう。

 一昔以上前のことであるが、奈良町の鍛冶屋さんに鉄鏃の復元品を作ってもらうことになった。報告書にあった図面や写真を見せてお願いしたところ、「こんなもの作ったことがないし、いくら図を見せられても・・・・、これと同じモノを作れ、ということだったら何とかなる」とのこと。つまり、「様」があれば作ってみてもいいとのことであった。そこで、古代と同じように、いくつかの鉄鏃の「様」を木で作って製作をお願いした。1週間たち、1ヶ月たち、だいぶ悪戦苦闘しているとの噂を耳にしていたが、完成した鉄鏃の出来映えは、「様になっていた」のである。

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木製様とそれを手本に作られた鉄製品

(企画調整部長 小林 謙一)
※肩書きは執筆当時のものです。

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