2004年10月
最近、えっと思った、ちょっとした話。わが研究所は、中国や韓国の研究所との交流が盛んで、年間、互いに行き来する研究者は100名近くにもなります。
そんな中、先日、来日された中国西安市の方々と会食したときのことです。女子十二楽坊から、中国の伝統的な楽器の演奏、特に二胡の人気などに話がおよび盛り上がりました。 そうしたら、中国側の考古学者の一人が、突然、あれは中国の伝統楽器ではありませんと、強調し出しました。「『胡』 というのは、もともと西からきたもので、騎馬民族の楽器です。
だいたい、中国には古代からの伝統的楽器演奏は一切残っておりません。むしろ残っているのは日本です。」と。
彼によると、雅楽にこそ古い中国の楽器が残っており、しかも連綿と演奏されつづけている。中国では、楽譜は残っているけれども誰も演奏できなくなってしまった。今演奏されている二胡などの楽器は、すべて西からきた新しい楽器である、というのです。
中国の楽器に詳しくない私としては、なるほどと思いながらも、そう言い切って良いのだろうかという感じで彼の説を拝聴していました。気になるので、後で少し、調べてみました。
中国の楽器のことはまだよくわかりませんが、まず、気楽に伝統楽器などという名称は使わない方が良さそうです。一般に、古来からの楽器は単に古楽器と呼ばれているようで、二胡などは民族楽器という言い方をされています。二胡のような弦楽器は、中近東や中央アジアから宋や元の時代に入ってきて定着したようです。
唐以前を研究する考古学者からみれば、時代の新しい楽器は「伝統楽器」に値しないのでしょうか、あるいは漢民族の楽器ではないからということなのでしょうか・・・。しかし、雅楽に使われる楽器が、主に中国から伝わったものであることは間違いありませんが、そのルーツを辿ればすべて古代ペルシャに行き着くという説もあります。伝統楽器とは一体何でしょうか。
(埋蔵文化財センター長 田辺 征夫)
※肩書きは執筆当時のものです。